会社設立の一般的な手順について説明します。実際の手続きは弊社のような専門会社に依頼すれば、簡単に行うことができます。ここでは、会社の設立方法について理解していただくため、上から順にお読みいただくことをおすすめします。
流れ
1.設立する州を決める
営業活動を行う地域が州内に限定している場合は、その州に設立するのがよいでしょう。しかし、何らかの理由で他州に設立したい場合、もしくは日本での営業を主な目的としている場合は、50州の中から選ぶことになります。
こちらの「各州の会社法情報」もご参照ください。
設立する州が決まれば、州法を確認しましょう。
アメリカはインターネットによる情報公開が進んでいますので、多くの州において公式ウェブサイトで州法を公開しています。
ただし、情報は英語ですので、苦手な方は専門家に相談するのが良いでしょう。
主な州の会社法サイト
日本では「登記簿」と「定款」が主な設立のための書類となりますが、アメリカでは「基本定款(article incorporation)」(州によっては「チャーター(charter)」という)と「付属定款(by-laws)」が主な書類です。
2.基本定款を作成する
「基本定款」は州で定められた会社の基本情報が記載され日本の「登記簿」に類似したもので、州に提出し登録されます。「付属定款」はいわば会社内の詳細な法律であり日本の「定款」に当てはまります。
従来、基本定款は州で定められた書式用紙にタイプし(書式を使用せずに自分で全てをタイプしてもOK)州務長官に提出するのが一般的でした。しかし、近年、州のウェブサイト上で必要な情報を入力すると基本定款が自動的に作成され、その情報はインターネットを通して州務長官へ提出されることができる州もあります。
基本定款の書式例 (PDFファイル 30KB)
基本定款に記載する内容は州によって異なりますが、以下に典型的な項目とその説明をします。
(a) 会社の商号
日本で株式会社を組織する場合は、商号に「株式会社」を含める必要がありますが、アメリカでも同じようにコーポレーションを組織する場合は、商号末尾に Corporation, Incorporated, Company, Limitedのいずれか、または、その省略形である Corp., Inc., Co., Ltd. のいずれかを含む必要があります。
既に州内に類似した商号の開始が存在している場合は、登記することができません。類似の基準は「州務長官が他の会社と識別することができる」となっており、実際には州当局によって判断されます。
なお、多くの州では「bank」(銀行),「bank and trust」(信託銀行),「insurance」(保険)など特殊な規制がある業種を商号に含めることはできません。
■Corp., Inc., Co., Ltd. の違いについて
Corporation, Incorporated, Company, Limitedはそれぞれ「会社」という意味を含んでいます。それでは、もう少し詳しくこれらの違いについて説明します。
Corporation (Corp.)は、法律で定められた手続きを済ませ、法人格が与えられ、会社名義での取引や財産取得を認められた事業組織を表します。また、法人格は構成員と別の体(人格)が与えられており、構成員は有限責任である意味を含みます。
Incorporated (Inc.) は、Corporation とほぼ同じ意味です。ただし、Corporation は法律で定められた手続きを済ませた結果を主体としているのに対し、Incorporated は法人化(corporate)の手続きを行っている(in- = into)プロセスを経ていることを主体としています。
なお、アメリカで最も使用されているのが Inc. です。Inc.はLtd. とは違い、株主は株式に関する制限を持たないのが一般的であり、比較的、多数の株主を持つ大きな事業組織(またはそれを目指す事業組織)に使用されることが多くなっています。
Company (Co.) は、「共にパンを食べる人」から転じて「仲間」が語源です。つまり、仲間による共同の事業体であることを表します。これは単なる仲間ですので、構成員が有限責任であるという意味を含んでいません。
Limited (Ltd.) は、責任が有限であることを主体としています。つまり、構成員が有限責任である事業組織を表します。なお、アメリカでは、株主や株式に対し何らかの制限を設けた事業組織に使用されることが多く、比較的、小さな事業体が多くなっています。
なお、イギリスの会社はLimitedが含まれていることが求められます。一方で、Incorporatedが使用されているのは、アメリカとカナダです。従って、Ltd. であればイギリスかアメリカの会社であり、Inc.であればアメリカの会社であることを印象付けます。
■Corp., Inc., Co., Ltd.の使用傾向について
実際に、ニューヨーク証券取引所(NYSE)に2011年1月現在上場している企業(外国企業を除く)のうち、コーポレーションの商号末尾の傾向を調べますと、以下のとおりでした。 圧倒的に Inc. が多く利用されているのが分かります。
Inc.
Co
Corporation
Corp.
Company
Other
商号 | 会社数 | 割合 |
Inc. | 1,010 | 61% |
Corporation | 390 | 24% |
Company | 79 | 5% |
Co. | 63 | 4% |
Corp. | 63 | 4% |
Incorporated | 21 | 1% |
Ltd. | 16 | 1% |
Limited | 10 | 1% |
計 | 1,652 |
ハワイ州商号規則(参考)
- 数字と、数字を表す単語および記号の場合
例:”Twenty-Seven, Inc.”と “27, Inc.”と”XXVII, Inc.”は類似商号となります。 - スペルが違うが発音が同じ場合
例:”Beach Days, Inc.” と “Beach Daze, Inc.” は類似商号となります。 - 事業体を表す単語のみが違う場合
例:例:”Sampson, Inc.”と”Sampson Corporation”と”Sampson, Incorporated” は類似商号となります。 - 2つの単語に挟まれる “a” ,”an”, “and”, “the”, “of”, “in”, “at”, “on”, “to” or “for” もしくはハワイ語の “da”, “ka”, “ke”, “na”, “la”は無視されます。
例:”Oceanside Pier Honolulu, Inc.”,と”The Oceanside Pier of Honolulu, Inc.”と”An Oceanside Pier for Honolulu, Inc.”は類似商号となります。 - スペースや記号は無視されます。
例:”ABC, Inc.” と”A.B.C., Inc.”と “A B C, Inc.”と”AB&C, Inc.”と “A*B*C, Inc.”は類似商号となります。 - 事業体を表す単語を2つ以上含む場合、その単語は無視されます。
例:“Acme Construction, Inc.” と “Acme Construction Company, Inc.”類似商号となります。 - 複数形のおよび所有格を表す”s”は無視されます。
例:“Acme Contractors, Inc.”と “Acme’s Contractor, Inc.” と “Acmes Contractor, Inc.”は類似商号となります。 - 一般的な省略形は同じと見なされます。
例:“Southeast ,と“S.E. Landscaping, Inc.”と “SE Landscaping, Inc.” と“S E Landscaping, Inc.”は類似商号となる。(Southeast, S.E.は南東の意味) - ハワイを表す単語“of Hawaii”, “Hawaii”もしくは省略形の “HI” は無視されます。
例:“Omni, Inc.”, “Omni of Hawaii, Inc.”, “Omni of HI, Inc.”, “Omni Hawaii, Inc.” , “Omni HI, Inc.”は類似商号となります。 - “Hawaii” と “Hawaiian”から始まる商号は同一と見なします。
例:“Hawaii Flower Bouquet, Inc.” と “Hawaiian Flower Bouquet, Inc.”は類似商号となります。
(b) 存続期間
以前は会社の存続期間として50年などとする州が多く存在していましたが、今日の全ての州会社法では存続期間が無期限であることを認めています。特に事情がない限りは”無期限”とするのが一般的でしょう。
(c) 会社の目的
多くの州では、「一般的な事業目的」または「あらゆる適法な事業に従事すること」を事業目的として会社を設立することが可能です。しかし、これを採用せずに限定した事業目的としても構いませんが、会社の活動を束縛し不利益が生じることが多いと考えられています。
なお、「一般的な事業目的」等であればあまりにも設立目的が漠然とし対外的に会社の存在を明確に表現しにくい場合もあるため、事業目的の条項において会社の主たる事業または活動を限定し、更に「その他あらゆる適法な事業に従事すること」とする会社も多く存在しています。
(d) 資本の構造
資本金の額は以前、最も一般的な最低資本額として1000ドルでありましたが、今日では一部の州を除いて、どのような最低資本金の定めも根拠のないもので債権者に対する意味のある保護として機能していないとの考えより、最低資本の要件は撤廃されました。
(e) 登録事務所の住所、登録代理人の氏名
州内の事務所の住所と登録人を記載します。居住の州内で設立する場合は、自分の住所と氏名を記入することになるでしょう。一方、制度や税制面で有利な他州を選択して、会社を設立することができます。
その際は、どの州も会社を設立するための条件として、州内の事務所と代理人を必要とします。その理由として、州からの公文書をその住所宛に送ることと、訴状の受領代理人を確保するためです。
しかし、これでは居住していない州に設立することは困難となってしまいます。この不都合を解決するために、アメリカでは会社設立用の登録事務所と登録代理人をレンタルするサービスを提供する会社が存在しています。
日本ではなじみの薄い制度ですが、アメリカでは当たり前のように会社法によっても定められています。むしろ、基本定款にレジスター・エージェントを登録することを前提に記入の欄があるくらいです。その理由として、アメリカには戸籍制度がなく必ずしも登録住所に会社の実体がなければならないというという意識は低い、州によって会社法が異なるため有利な州を選ぶ権利があるという考えからでしょう。
(f) 取締役の人数、最初の取締役会構成員の氏名・住所
設立者は基本定款で最初の取締役会の構成員を指名します。多くの州において、取締役は非居住の外国人であっても構いません。また、取締役の員数は1名以上とする州が多くなっています。取締役会の開催によって会社設立を完了させるのが通例です。
一般的に、取締役会に変更があったとしてもそれを基本定款の修正または州務長官への申請により反映させなければならないという規定はありません。最初の取締役会の任期は第1回年次株主総会または後任取締役が選任され許可されるまでとされています。
第1回年次株主総会は最初の創立取締役会の直後に設定された取締役が直ちに就任できることとなっています。
(g) 設立者の氏名・住所
基本定款に署名する1名もしくは複数の者を設立者(incorporator)といいます。その数は州により異なりますが、1名もしくはそれ以上とする州が多くなっています。ほとんどの州で居住や年齢の要件は必要なく、成人に達したものであれば設立者となることができます。
なお、設立者は会社設立の行為に対して責任を負う危険性がないと一般的に考えられています。現実的に多くの弁護士やその秘書、会社設立代行業者によって、業務の一環として設立者を務めています。設立者は会社設立後の最初の取締役を基本定款で指名して、その取締役が会社設立を完了するための会議を開催するようにします。
3.申請手数料と基本定款を州に提出する
従来、基本定款は用紙にタイプしたものを州務長官に提出していました。州によって、書式自由であったり、申請用紙が準備されていて空欄を埋めるものであったり、さまざまです。
近年ではインターネットによる電子申請を受け付けている州もあります。この場合、申請手数料はクレジットカードで決済することができます。
書類が認可されれば、州側が書類に登録許可と登録日の記載を加え、「設立証明」(certificate of incorporation)を作成し、書類を提出した日にさかのぼり法人格が付与されます。多くの州では提出書類の原本を州務長官が保管するか、コンピューターのデータとして保管されます。
4.株券・コーポレートシールを設定する
州によって会社設立が認可されたら、株券の印刷またはタイプと、コーポレートシールの作成を行います。コーポレートシールとは金型に商号・設立州・設立日などが明記された刻印であり、日本の会社印に類似するものです。通常、株券、債権、議事録の認証付妙本や重要な契約書に押されます。
これらは、弁護士や会社設立代行サービス会社に依頼した場合、書類と共に作成されるでしょう。ご自分で設立手続きを行う場合には、インターネットで専門業者に発注します。
5.付属定款を作成する
付属定款は社内業務を統括するための一連の規制です。これには、基本定款には記載されない最初のオフィサーの選任、取締役会など詳細にわたり記載されます。なお、付属定款は州務長官に提出されず、会社で保管します。
6.最初の取締役会を開催する
付属定款を設定後、最初の取締役会(州によっては設立者の会議)を開催し設立を完了させます。その会議の決議内容は議事録として記録を残す必要があります。典型的な会議内容としては、株式申込みもしくは契約申込みに対する受諾、株式の発行およびその対価の設定、契約、ローン、付属定款のコーポレートシールの認証などです。
会社設立の専門会社「レジスター・エージェント」
アメリカには会社設立手続きを行ってくれる専門会社があります。これらの会社は、”レジスター・エージェント”とよばれ、現地の登録事務所の住所や登録代理人を提供するサービスを兼ねています。
現地のレジスター・エージェントに依頼することによって、州への基本定款の登録から付属定款、株券、コーポレートシール、最初の取締役会議事録の準備など、一連の会社設立作業を行ってくれます。また、、州に対して毎年の登録更新を報告したり、登録内容の変更手続きを行ったり、会社宛の郵便物を転送したり、訴状に対して適切な処理をするなど、会社維持のための各種サービスを提供しています。
英語に自信がある方は、直接設立を依頼してもよいでしょう。
レジスター・エージェントを探すためには、州の会社登録部門やアメリカ大使館などに問合せを行います。実際に州内の営業を行っていない会社が最も多く存在しているデラウェア州では、州の公式ウェブサイトでも検索することができます。
代表的なレジスター・エージェント
Delaware Registry, Ltd. | TEL: (302) 477-9800 FAX: (302) 477-9811 |
Business Filings Incorporated | TEL: (608) 827-5300 FAX: (608) 827-5501 |
The Incorporators Ltd. | TEL: (302) 235-5800 FAX: (302) 235-5900 |